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2021.08.17
忍者先生のパワエレ講座10

MOS FETの許容損失と温度

 

 それではデータシートのグラフについて述べていきましょうか。グラフは順番に述べていきたいと思います。今回もローム株式会社殿のデータシートを参考にさせていただきます[1]。早速ですが、図 1 のグラフを見てみてください。これは横軸が JunctionTemuperature=ジャンクション(接合部)温度で、縦軸が MOS FET の許容損失のグラフです。ここで、ジャンクション温度とはパッケージ内の半導体チップの温度で、許容損失とはチップで生じる損失=導通損失+スイッチング損失を示します。

 ところで、ジャンクション温度とはパッケージ内部のどこの部分になるのでしょうか。図 2 に TO247 のパッケージ内部を示します[2]。図 2 より半導体チップがリードフレームにダイボンド材(はんだなど)で接着されており、その上からモールド樹脂で封止されています。モールド樹脂は半導体チップの保護、防湿および絶縁用途の観点で使用されています。さて、ジャンクション温度はどこの温度にな
るのかというと…チップの表面温度になります。ジャンクション温度の位置づけを知るために、図 3 へTO-247 のパッケージ断面を示します。Tj で表現された温度がジャンクション温度を表現しており、これがチップ温度となります。Tc はケース温度でリードフレームのヒートシンク側温度です。Ta は周囲温度で、これは外気温です。

 

 それでは図 1 に戻りますが、このグラフの意味を考えます。まずデータシートからこの素子の Ta=25℃の許容損失における絶対最大定格は 231W で、これは Ta=25℃で、MOS FET のチップにて 231Wの損失が生じた場合、ジャンクション温度=チップ温度が 150℃となってしまうことを意味しています。つまり、デバイスの絶対最大定格の温度に達してしまいます。また、周囲温度 100℃ではどうなりますでしょうか?このグラフによると、231W×0.4(40%)の損失で、150℃に達してしまうので、92.4W の損失がチップ部で生じると、このデバイスは絶対最大定格を越えてしまうということになります。つまり、周囲温度 Ta が大きくなれば、大きくなるほど、MOS FET で損失できる電力損失が小さくなってしまうとうことです。そのため、MOS FET を直列にしたり、並列にしたり、回路方式を変えたりなどいろいろな工夫が必要になってしまうのです。

 ところで、MOS FET のチップ温度が 150℃にならなければ良いというものでもありません。MOS FET のパワーサイクル寿命の計算も必要になってきます。これは、MOS FET は温度の上昇や下降の温度や変化幅によって寿命に影響することが大きな要因です。例えば、素子温度が急激に上昇や下降を繰り返す場合はチップ表面のアルミワイヤ接合部の劣化により故障するといったことが支配的になります。一方で、ケース温度 Tc の温度が上昇や下降を繰り返すことにより、はんだ接合部の劣化による故障が支配的になることもあります。これは次回説明しましょう。つまり、温度はチップの絶対最大定格を越えなければいいんだぁーではなく、さらにワイヤボンディング接合部の劣化やはんだ接合部の劣化を考慮して、設計をしていかなけばならないということです。うーん奥深いし、設計は難しいですね。今回はここまで。次回もよろしくお願いいたします。

 

参考・引用文献
[1] ローム株式会社 HP:
https://fscdn.rohm.com/jp/products/databook/datasheet/di
screte/transistor/mosfet/r6020enz4c13-j.pdf
[2] ローム株式会社 HP:
https://fscdn.rohm.com/en/techdata_basic/transistor/inner_
structure/TO247_Inner_Structure-j.pdf
[3] INFINEON TECHNOLOGIES CO., LTD. HP:
https://www.infineon.com/dgdl/InfineonDiscrete_IGBT_in_TO-247PLUS-AN-v02_00-
EN.pdf?fileId=5546d46249cd10140149e0c7fe9d56c7